月別アーカイブ: 2025年8月

マエコウ林業のよもやま話~第10回~

皆さんこんにちは!

マエコウ林業株式会社、更新担当の中西です。

~アスファルト化~

 

日本各地で道路や宅地の不透水面(アスファルト・コンクリート)が増えると、森林と流域のバランスが変わります。林業にとってはアクセス性の向上というメリットと、水循環の乱れ・土砂リスク・生態断片化というデメリットが表裏一体。現場で役立つ要点をまとめます。


1|水:雨の行き先が変わる

  • 浸透↓・表面流出↑で、下流の増水ピークが立ち上がりやすくなる。

  • 森林側では渇水期の湧水・沢水が細りやすい=苗木活着・間伐後の更新に影響。

  • アスファルト道路からの集中排水が谷頭や法面に当たるとガリー侵食や小規模崩壊の引き金に。

対策
透水型舗装・側溝の分散放流、路面横断排水(カットオフ)・雨庭/調整池の併設、渓畔部の緩衝帯(バッファ)設定。


2|土:締固めと微地形の破壊

  • 舗装・造成で土壌の団粒構造が壊れ、保水・通気が低下。

  • 集材路や土場の恒久舗装は泥濘を減らす一方で、雨の“逃げ道”を用意しないと周囲の林地へ負荷集中。

  • 微地形(凹凸)を均してしまうと、実生床や林床植生が痩せる。

対策
土場は半透水化+周縁に浸透帯、法面はヤシ繊維マット+早期緑化、路網は等高線追従で切土・盛土を最小化。


3|生態:断片化と“縁(エッジ)”効果

  • 舗装道路は生息地の分断を招き、ロードキルや外来種侵入の回廊になりやすい。

  • 林縁は乾燥・高温・風当たりが強まり、スギ・ヒノキ若齢林や広葉樹更新に不利。

対策
野生動物横断構造(ボックス・カルバートの改修)、在来種での林縁帯再生、路肩の外来草本管理を年次計画に。


4|経営:アクセス向上の恩恵とリスク管理

メリット

  • 素材運搬の効率化、災害時の消防・救急アクセス、観光・レクリエーションの受け皿。

リスク

  • 人流増で不法投棄・たき火・盗伐の監視負荷↑。

  • 降雨強度が大きい地域では、補修・排水維持コストが嵩む。

運用の勘所

  • IOTカメラ・入退管理、路網台帳×ドローン点検で維持管理を省力化。

  • 地元と協定を結び、林道の目的外利用ルール(オフロード、BBQ等)を明文化。


“舗装する/しない”の判断フロー(現場版)

  1. 機能:常時通年通行が必要?(救急・観光・通学・物流)

  2. 地形・土質:集水が集中する谷頭・崩壊地形は非舗装+透水設計を原則に

  3. 生態:希少種・渡りルートがあるか(あれば回避or横断構造

  4. 維持費:10年スパンのLCCで比較(補修・排水清掃・法面緑化含む)

  5. 代替案簡易舗装・スラリー・固化土など“半透水”や間欠舗装を検討


低影響(LID)型の組み合わせ例

  • 透水性舗装+生物浄化側溝(バイオスウェール)

  • 交差点手前にレインガーデン、末端に小規模調整池

  • 法面は粗朶・丸太筋工+在来種播種で土砂動態を抑制


モニタリングKPI(簡易で効く)

  • 路肩の侵食長(cm/年)/側溝の堆砂量(L/回)

  • 林縁の枯損・倒木本数/外来草本の被度

  • 小流域でのピーク流量比(整備前後の比較)

  • 補修発生件数/㎞・年費用/㎞・年


事例イメージ(要点)

  • 観光林道の一部を透水化+分散放流に改修 → 豪雨後の路面損傷が減り、下流の濁り苦情が激減。

  • 製品運搬路は交差点と急勾配部のみポイント舗装、中間は砕石路盤+排水横断で維持費を半減。


アスファルト化はゼロか100かではありません。
林業の視点では、「舗装する場所の選択」×「透水・排水」×「緑の補償」が鍵。
この三点を設計と運用に落とし込めば、アクセスの利を活かしつつ、水・土・生態系・経営の健全性を同時に守れます。

 

 

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マエコウ林業のよもやま話~第9回~

皆さんこんにちは!

マエコウ林業株式会社、更新担当の中西です。

~自然区域~

日本の森林は、亜寒帯→冷温帯→暖温帯→亜熱帯へと南北・標高で滑らかに切り替わります。さらに日本海側の豪雪太平洋側の台風・塩害内陸の寒暖差というローカル条件が重なり、同じ樹種でも“育て方”が変わります。林業経営に直結する観点で、主要な自然区域と勘所をまとめました。


1) 亜寒帯(北海道・本州高標高帯)

  • 主な樹種:エゾマツ・トドマツ・ダケカンバ・カラマツ

  • 現場リスク:強風・着雪折損・凍害、エゾシカ食害

  • 経営の勘所

    • 長伐期&選木・択伐で蓄積を太らせる

    • 冬期路網の凍結地耐荷を活かした搬出計画

    • 防鹿柵・ツリーシェルターで再造林の初期保護

2) 冷温帯(東北~中部山地・日本海側多雪)

  • 主な樹種:ブナ・ミズナラ・トチ・サワグルミ、人工林のカラマツ・スギ

  • 現場リスク:豪雪・雪起こし、ナラ枯れ、急傾斜の土砂災害

  • 経営の勘所

    • 広葉樹の混交化で病虫害と風雪耐性を底上げ

    • 架線集材と高性能機を組み合わせた省力搬出

    • 雪圧対策(植栽密度・列向き・早期間伐)

3) 暖温帯(関東南部~近畿・四国・九州の低~中標高)

  • 主な樹種:スギ・ヒノキ・クヌギ・コナラ(照葉樹はシイ・カシ・タブなど)

  • 現場リスク:台風・豪雨、シカ食害、乾燥期の活着不良

  • 経営の勘所

    • 主伐→再造林→保育を確実に(下刈・除伐・間伐の時期厳守)

    • 花粉・台風対策で低花粉品種・耐風型枝打ち

    • 渓畔・急傾斜は多層林化で土砂災害に強い森づくり

4) 乾燥・塩害フロント(瀬戸内・太平洋沿岸の一部)

  • 主な樹種:アカマツ・クロマツ、コナラ二次林、防潮・防風の海岸林

  • 現場リスクマツ材線虫病、塩害、山火事

  • 経営の勘所

    • マツ単層林を広葉樹混交へ転換、抵抗性マツのポイント導入

    • 海岸林は帯状の役割配分(前列=抵抗力、後列=多様性)

    • 燃えにくい路網設計と下層燃料の管理

5) 亜熱帯(南西諸島)

  • 主な樹種:リュウキュウマツ・オキナワウラジロガシ、マングローブ(オヒルギ等)

  • 現場リスク:強台風・塩害・外来種、薄い土壌

  • 経営の勘所

    • 防風林・景観林と木材利用のバランス設計

    • マングローブ域は保全優先+環境教育・ツーリズム連携

    • 風当たりを読む**樹形づくり(剪定・枝打ち)**と密度管理


横断テーマ:気候・生物災害への“適地適木”再設計

  • 高温・多雨・強風の増加に合わせ、混交・多層・長伐期へシフト

  • 病虫害(松枯れ・ナラ枯れ)は抵抗性樹種・抵抗性品種+発生前の更新で先手

  • シカ食害は植栽前から防護・誘引・密度調整を計画的に

  • 土砂・洪水に対し、渓畔は広葉樹、尾根は耐風性針葉樹など機能配置


区域別の“使えるKPI”

  • 更新成功率(3年生存率)/成長量(m³/ha/年)

  • 間伐実行率(計画対比)/混交率(広葉樹割合)

  • 路網密度・可搬出率病虫害発生率再造林コスト/ha


森林所有者・事業体のチェックリスト

  • □ 自分の林分はどの区域タイプか(気候帯+豪雪/台風/乾燥の補正)

  • □ 樹種構成は単層偏重になっていないか

  • □ 再造林の**初期3年計画(防鹿・下刈・補植)**は明文化済みか

  • 路網と土砂リスクの地形診断を更新したか

  • □ 病虫害の抵抗性樹種/品種の選択肢を検討したか


日本の“自然区域”は、樹種選定・育林・路網・防災の答えを教えてくれます。
自分の森を区域の文脈で捉え直し、適地適木×混交多層×防災設計へ。これが、収益性とレジリエンスを同時に高める最短ルートです。

 

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